業務でも趣味でも飛行回数が増えるほど、いちいち場所や日時ごとに個別の許可承認を出すのは大きな負担になります。
そんなときに威力を発揮するのが全国包括申請です。
本記事では、制度の仕組み、対象になる飛行、DIPS2.0での実際の申請手順、飛行マニュアルの作り方、よくある不備の回避、更新運用までを専門家の視点で網羅します。
初めての方が迷いやすいポイントを具体例とチェックリストで整理し、承認までの最短ルートを丁寧に解説します。
目次
ドローン 全国包括申請の基礎とメリット
全国包括申請は、一定の安全体制と飛行条件を満たすことを前提に、広域かつ一定期間の特定飛行をまとめて許可承認してもらう手続きです。
個々の案件ごとに申請する手間を削減し、計画変更への柔軟性を高められるのが最大の利点です。
ただし、何でも自由に飛ばせる万能許可ではなく、対象範囲や遵守事項が明確に定められています。
全国包括申請の定義
全国包括申請とは、特定飛行に当たる行為を、地域や案件を限定せずに全国で反復実施する前提でまとめて申請する枠組みです。
有効期間は最長1年が一般的で、飛行方法や安全管理は申請時に提出する飛行マニュアルに従います。
申請自体の手数料は不要ですが、機体登録など周辺手続きに費用がかかる場合があります。
対象となる飛行の範囲
包括の対象になりやすいのは、人口集中地区での飛行、夜間飛行、目視外飛行、第三者または物件との距離確保が困難な飛行、催し場所上空の飛行、物件投下などです。
一方、空港周辺や150m以上の空域など、関係機関との個別調整が不可欠な空域は、全国包括では原則対象外になりやすく、個別申請が基本になります。
メリットと適するケース
定期的に各地で空撮や点検業務を行う事業者、緊急対応の可能性がある自治体や報道、年間を通じて訓練を繰り返すスクールなどに有効です。
計画変更が生じても包括の条件内であれば都度の申請を省略でき、機会損失を抑えられます。
標準化されたマニュアル運用により、操縦者の安全レベルも平準化しやすくなります。
注意点とできないこと
全国包括は万能のフリーパスではありません。
第三者の上空を継続的に飛行するような高リスク飛行、空港周辺や管制空域での飛行、危険物輸送、レベル4相当の飛行などは別枠の要件や個別の調整が必要になります。
包括の条件から外れるときは必ず個別申請に切り替えます。
対象となる飛行と必要な許可・承認の整理
まずは自分の飛行が許可対象の空域なのか、承認対象の飛行方法なのかを切り分けるのが出発点です。
この整理が曖昧だと、包括申請の設計も不正確になり、審査で差し戻されやすくなります。
許可が必要な空域
許可が必要なのは、空港周辺、地表または水面から150m以上の空域、人口集中地区です。
全国包括で認められやすいのは人口集中地区の許可ですが、空港周辺と150m以上は場所ごとの調整が前提となるため、個別申請での対応が基本と考えましょう。
承認が必要な飛行方法
夜間飛行、目視外飛行、第三者や物件との距離確保が困難な飛行、催し場所上空の飛行、物件投下、危険物輸送などは承認が必要です。
全国包括では、夜間や目視外、距離確保困難などの反復運用が標準化されている場合に承認対象となります。
レベル分類と包括の関係
有人地帯での第三者上空の目視外飛行など、リスクの高い飛行は別制度の要件を満たす必要があり、全国包括の枠外になるのが一般的です。
一方で、レベル1から2相当の運用で、標準マニュアルに基づく安全対策を講じるケースは包括の対象にしやすいと考えられます。
全国包括申請と個別申請の違い
両者の違いを理解し、案件に応じて使い分けることで、審査の確実性と運用の効率を両立できます。
下表で概要を比較します。
| 項目 | 全国包括申請 | 個別申請 |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 全国の複数地点で反復実施 | 特定の日時・場所の単発実施 |
| 適合する案件 | 定常業務、訓練、各地での撮影 | 空港周辺や高高度、特殊実験 |
| 有効期間 | 最長1年 | 案件期間に限定 |
| 審査の視点 | 標準化された安全体制・マニュアル | 個別のリスクと現場対策 |
| 柔軟性 | 包括条件の範囲内で高い | 日程や場所変更に弱い |
使い分けの基準
反復性と再現性が高い運用は包括、単発でリスクが高い運用は個別申請が適します。
特に空域調整が必要な飛行は個別での計画立案が確実です。
有効期間と条件の比較
包括は最長1年の中で、夜間や目視外など複数の飛行方法を束ねて運用できます。
個別は案件に合わせて柔軟な方法を設計できますが、有効範囲は限定的です。
DIPS2.0での申請手順
申請はDIPS2.0でオンライン完結します。
事前準備の精度がそのまま審査速度に影響するため、アカウント、機体登録、マニュアル、体制情報を先に整えましょう。
事前アカウントと機体登録
操縦者または事業者のアカウントを作成します。
法人は代表者確認の手続きを早めに進めるとスムーズです。
続いて機体登録を行い、登録記号を取得します。
原則としてリモートID要件への適合確認が必要です。
申請作成の流れ
飛行許可承認の新規申請を選択し、包括申請を選びます。
飛行目的、飛行方法、対象空域、期間、使用機体、操縦者を入力します。
全国を対象にする場合でも、空港周辺や150m以上など対象外とする空域の扱いを明確にします。
包括の範囲内で運用する旨を記載し、遵守事項にチェックを入れます。
添付書類と記載例
標準飛行マニュアル、安全体制図、教育訓練計画、点検整備記録様式、保険加入証明の写しなどを添付します。
申請画面の自由記述欄には、第三者の立入管理方法、フェイルセーフ、緊急時の通報手順、夜間の照明仕様、目視外の監視方法などを具体的に書き込みます。
提出後のやり取り
不明点があれば照会が届くため、速やかに修正または補足します。
承認後は許可承認書と条件をチームへ展開し、運用前ブリーフィングで再確認します。
飛行マニュアルと体制整備のポイント
全国包括の審査では、マニュアルの実効性と運用体制の一貫性が重視されます。
形式的な文書ではなく、現場で使える手順に落とし込むことが合格の近道です。
標準マニュアルの活用
標準マニュアルの骨子に、機体特性や業務内容を反映させて自社仕様に落とし込みます。
点検周期、チェックリスト、役割分担、夜間の灯火基準、目視外の監視手順などを明文化します。
リスクアセスメント
現場選定から離着陸帯の設定、立入管理、飛行経路、フェイルセーフまでを一連のプロセスとして評価します。
ハザードと対策を対応付け、実行責任者を明示します。
記録と教育訓練
操縦履歴、機体整備、バッテリー管理、気象判断、ブリーフィングとデブリーフィングの記録様式を統一します。
新規メンバーの同乗訓練や年次再評価の手順も定義します。
- 離着陸帯の第三者立入は物理的に遮断できるか
- フェイルセーフ設定はマニュアルと実機が一致しているか
- 夜間照明の可視距離と配置は規定を満たすか
- ログ様式は現場で使いやすいか
技能証明・登録・リモートIDなど事前準備
制度面の前提が満たされていないと、包括申請は前に進みません。
機体登録、リモートID、操縦者の技能裏付け、保険の整備を先に確認します。
機体登録とリモートID
100g以上の機体は登録が必要で、登録記号の表示とリモートIDへの適合が求められます。
内蔵型または外付けモジュールでの対応、例外適用の可否を運用に合わせて判断します。
操縦者技能証明の考え方
技能証明は、一定の高リスク飛行で必須となる場合がありますが、包括申請そのものの取得条件ではありません。
ただし、審査の信頼性向上や社内基準の明確化に有効なため、該当業務では取得を推奨します。
保険と賠償リスク
法令で一律義務化されていないケースでも、対人対物賠償の保険加入は実務上必須です。
包括の条件に保険加入を記載し、証憑を添付しておくと審査がスムーズになります。
申請書の書き方とよくある不備
差し戻しの多くは、抽象的な記載やマニュアルとの不一致が原因です。
現場で再現可能な具体性を担保しましょう。
目的と活動内容の具体化
空撮、点検、測量、訓練などの目的を分け、代表的な使用機体とペイロード、想定高度、被写体や対象設備を具体に記述します。
単に撮影と書くのではなく、構造物外観の高解像度撮影など成果物イメージまで言及すると明確です。
飛行経路と区域の記載
全国を対象とする場合でも、典型的な現場配置や立入管理の方法を書きます。
地上スタッフの配置図、離着陸帯サイズ、緊急退避経路の管理など、個別現場で再現できる粒度で説明します。
体制欄のよくあるミス
責任者名は役職と連絡先まで記載し、現場で即時に判断できる権限を明示します。
委託先を活用する場合は、教育水準と監督方法の記載を忘れないようにします。
審査で指摘されやすい表現
必要に応じて対応する、といった抽象表現は避け、条件が満たせない場合は飛行を中止するなど判断基準を明文化します。
マニュアルの文言と申請書の用語は統一します。
- 夜間灯火の仕様が機体ごとに異なるのに一律記載
- 目視外時の監視方法が地上監視か機上センサーか不明確
- 第三者立入管理を看板掲示のみで済ませている
- マニュアル改定履歴がなく最新版が特定できない
審査期間の目安とスケジュール設計
審査期間は申請内容の精度や混雑状況で変動します。
余裕を持った計画と、差し戻しに備えたバッファ設定が重要です。
初回と更新の違い
初回申請は体制やマニュアルの確認に時間を要し、目安として数週間程度を見込みます。
更新は大幅な変更がなければ短縮される傾向ですが、実績と改善点の反映を明確にしておくとより確実です。
繁忙期の考え方
年度末や大型連休前は混雑しやすく、回答までの待機が延びることがあります。
この時期に更新期限が重ならないよう、前倒しでの再申請を推奨します。
期限切れ防止の実務
有効期限の1〜2か月前には更新草案を用意し、差し戻しリードタイムを確保します。
現場は許可承認書の有効期間と運用条件を常に携行し、期限管理を共有カレンダーで可視化します。
更新・変更・追加機体の対応
包括許可承認の運用は、更新だけでなく、随時発生する機体の入れ替えや体制変更への機動的な対応が鍵です。
差分管理を徹底して、都度の再申請を効率化しましょう。
条件変更の扱い
飛行方法の追加や体制の改編など、審査要件に関わる変更は変更申請または再申請が必要です。
小変更でもマニュアルと申請の不一致が生じないよう、版管理を厳格にします。
機体追加とマニュアル整合
新機体の追加時は、登録、リモートID、灯火仕様、フェイルセーフ設定を確認し、マニュアルの機体一覧と点検要領を更新します。
ペイロード変更時は重量と性能に伴う運用限界を見直します。
再申請と差分管理
前回申請からの変更点を一覧化し、審査側が差分を把握しやすい形で添付します。
不一致箇所が一目で分かると、審査は加速します。
業務別活用例と安全運航の実務
全国包括は、業務ごとのリスク特性に合わせた標準運用の構築に向いています。
代表的なユースケースを見ていきます。
測量・点検
山間部や郊外の目視外飛行が多く、フェイルセーフと立入管理が鍵です。
自動航行時は、地形追従やジオフェンスの設定、リンクロス時の帰還高度などを標準化します。
空撮・報道
人口集中地区での短時間の離発着と低高度飛行が中心です。
夜間の灯火、第三者の進入動線分断、飛行時間の短縮設計、ローター停止時の安全配慮を徹底します。
災害対応
緊急時は即応性が重視されます。
包括申請で平時から体制を整備し、通信手段の冗長化、関係機関との連絡プロトコル、飛行ログの迅速な共有手順を定めておくと効果的です。
- 各現場にA4一枚のクイックリファレンス版マニュアルを配布
- フェイルセーフ試験を月次で実施しログを保管
- 気象閾値は風速、降水、雲底、視程を数値で明記
まとめ
全国包括申請は、反復性の高い運用を前提に、標準化された安全体制を示すことで、広域かつ柔軟な飛行を可能にする仕組みです。
鍵は、許可対象空域と承認対象方法の正確な切り分け、DIPS2.0での漏れのない入力、現場で再現できる具体的なマニュアル、そしてログと教育による運用の実効性です。
初回は時間がかかっても、一度標準が固まれば更新と拡張は加速します。
本記事の手順とチェックリストを土台に、確実な包括申請と安全運航を実現してください。
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